2016/07/23
成功・失敗事例から考える!円滑な事業引継ぎメソッド ⑨
第9回「取引先企業への承継(親族外承継)」
前回までは、親族外への承継手法「従業員」・「M&A」の特徴や活用するために執るべき具体的行動などについてお伝えしてきました。
加えて、これら以外に「取引先企業」へ承継することも手段として考えられます。
そこで今回は、同手段の特徴やメリットについて「成功事例」を交えてご紹介いたします。
取引先企業へ承継した成功事例として、繊維の織物業がその販売先に事業を引き継いだ事例があります。織物業F社は、従業員数5名程度の小規模企業でしたが、特殊な自動織機を保有していたため、販売先G社とは密接かつ良好な関係を築いていました。しかし経営者の年齢は70歳を超え、後継者も不在であったため、今後の事業の行き先を案じていました。
一方、販売先G社の社長はF社の承継問題を何年も前から気にしていました。F社から仕入れる織物は、昭和期には他の多くの生産者からも調達が可能でしたが、今では県内で他に作っている会社をF社以外に見出すことができなかったからです。もしF社からの調達ができなくなれば主要製品の一つが生産不可能になり、収益減少が免れない状況だったのです。
このような経緯からG社の社長は、F社の社長に思い切って今後の方針について話し合いを持ちかけました。そこでは、F社従業員の継続雇用や工場と設備の引継ぎなどについて具体的な話し合いがなされ、お互いにとって最善の方策としてG社がF社を引き継ぐという結論に至りました。
この事例の特長やメリットについて考えると次のような要素が見えてきます。
(1)特殊技術や特殊設備の存在
譲り受け企業と譲り渡し企業の双方にとって、お互いが代りのきかない存在であることが、大きなポイントとなりました。
(2)販売先との良好な関係
元々、両社ともに良好な取引関係を構築できていたため、事業の引継ぎという繊細な問題に対しても社長同士が腹を割って話すことができ、お互いの立場に立った調整を図ることができました。
(3)早い段階での事前調整
事業引継ぎの話を両社でした時期は、F社社長の引退間際ではなく、数年前から少しずつ進めてきたことも成功のポイントでした。今後起こり得る事態を想定して早めに調整することは、事業承継に限らず経営を上手く進めるための要諦でもあります。
(4)地理的な距離
F社を引き継いだG社は、地理的に離れた2つの事業所を管理する必要があります。こうした場合、離れた事業所の管理を任せられる管理者が育っていることが前提となりますが、小規模零細企業では社長がすべてを管理している場合が少なくありません。したがって、社長の目の届く地理的な距離の近さも今回の事例の成功要素の一つとなっています。
(5)家賃収入
F社にとってのメリットとして家賃収入があります。もし廃業してしまえば、工場の建物、設備の撤去費用が必要になるばかりでなく、社長の収入は年金だけになるところでした。事業を引き継いでもらったことで工場の土地と建物について家賃収入を得ることができました。
以上のように、取引先企業への承継ならではの条件もありますが、廃業の道を選ぶ前に一考してみることで生まれる双方のメリットを考えてみてはいかがでしょうか。