2016/06/07
成功・失敗事例から考える!円滑な事業引継ぎメソッド ④
親族外への事業承継~従業員編~(成功事例)
小規模事業者が廃業をする理由の半数程度が息子・嫁がいない、または息子・嫁に継ぐ意思がないためであると言われています。一方で、後継者候補が未定の企業で、約8割の代表者が後継者について子供でなくてもよい(むしろ子供以外から選びたい)、というアンケート結果も出ています。(国民生活金融公庫総合研究所「2007年8月 小企業の事業承継問題に関するアンケート(50代以上の経営者向け)より」)
これらから、事業承継は親族内だけでなく、親族外への手段も考えられます。
そこで今回は、選択肢の一つである親族外(特に従業員)に対して事業承継を円滑に行うための対策を「成功事例」を交えてご紹介いたします。
ガソリンスタンドを7店舗ほど展開するD社の承継事例です。D社の先代社長は、73歳のときに健康面の不安が生じたことから社長の席を親族外の従業員に譲りました。先代社長には、親族内の後継候補者が居なかったわけではなく、28歳の息子さんがいました。ただし息子さんの年齢や勤務経験を考えると、新社長として会社を任せるには早すぎました。そこで、当時の部長の一人であったE氏に中継ぎ役の社長を任せたわけです。
事業承継のなかでも、D社のような親族外承継は乗り越えるべき課題が多いパターンの一つです。主な課題は、下記のとおりです。
①次期社長を任せられる人材が社内に居るか?
②新社長を引き受ける側の意欲と覚悟、経営能力があるか?
③自社株式の引継ぎをどうするか?
④金融機関に対する個人保証を負う覚悟が後継者にあるか?
これらの課題をD社はどのように乗り越えたのでしょうか。
まず①についてですが、これは先代社長がしっかりと右腕的な管理者を育成してきたことが鍵となりました。店舗がいくつかに分かれていることもありますが、ある程度の権限を管理者に委譲し「任せる経営」を実践してきたことが、経営者教育の一環になっていました。また、先代社長がE氏に「息子がまだ若いので、しっかりと育つまでの間、会社の経営を見てくれないか。」という明確な承継方針を示したことも見逃せません。
②については、E氏の愛社精神や使命感に拠るところが大きいように見受けられました。「自分自身も社長や会社に助けられてここまできた。次には自分が会社を背負って従業員のために経営を行っていくのだ。」という気構えが感じられました。また、社内の一通りの管理を任せられてきたことで経営センスを身に付け、社員からの信頼も得られていました。
③の自社株については、後継者が個人で買取りを進めて経営権を掌握するケースや、先代社長が後継者に買取りを求める場合が多いものです。しかし買取りには資金も時間も必要となります。そこで先代社長は、後継者に買取りを求めないことにしました。これは、先代社長の、私利私欲よりも会社の存続と社員のことを考えての英断であると言えます。
最後に④の個人保証ですが、これが親族外承継を難しくする大きな障害です。一個人で何千万から数億円に及ぶ会社の借入の保証を負うには相当の覚悟が必要です。E氏は、一時は引き受けるべきかを迷いましたが、自分に課された使命だという意識が決断を促しました。また、会社の業況が順調であったこともプラスに作用したことは間違いありません。
上記のように、D社は親族外承継を進めるうえでの障壁をいくつか乗り越えているわけですが、これらの成功要因は一朝一夕に生じたわけではなく、良い経営を永い年月かけて行ってきた結果でもあります。良い経営を行うことは、事業承継対策という節目を含めた「会社の永続性」を備えるための営みともいえます。