2018/06/26
社長引退後の遣り甲斐
先代社長の父から事業承継を進めている、後継社長から次のような相談を受けることが時々ある。
「佐原さん・・・ ウチの会社、3年前に先代社長の父から私に社長が代わったのですが、父である会長は営業会議に毎回参加しては社員に指示をするし、私が進めようとする経営方針には常にダメ出し。
これでは、どちらが社長かわからないですよ・・・」
社長交代後も、先代社長が会社経営に口を出し過ぎるケースである。
会長の気持ちもわからないでもない。
息子も可愛いが、それ以上に自分が長年に亘って手塩にかけて育て上げてきた会社が可愛くて仕方がないのだ。
たとえ、後継者が息子であっても、自らの人生をかけて育て上げてきた会社の経営を傾けるのは我慢がならない、という心理であろう。
また、中小企業の社長という立場への未練もある。
一国一城の主の立場を手放さなければならないのだ。
他にも、地元の会社経営者同志の付き合いや世間体、役員報酬、社長という肩書などを手放さなければならなくなる。
未練があって当然であろう。
後継者は、先代社長のこうした心理への配慮もしていく必要があろう。
どのようにしたら先代社長が気持ち良く、かつ前向きな気持ちで会社を退いてくれるだろうか?
そのヒントは、「ニューワールド理論」にある。
ニューワールドとは、新しい活躍の場である「新天地」を意味する。
具体的事例を挙げよう。
代表の佐原が信用金庫に勤務していたときのこと、4月1日になると人事異動が出る。
多いときには、全社員の2割程が転勤になる場合もあるのだ。
そのなかには営業担当者も多く、3年程同じ地域のお客様を担当していた者が多い。
営業担当者であるから、お客様との良好な関係づくりや信頼関係づくり、ときには公私にわたる相談に乗ったり乗ってもらったり、まさしく全身全霊をかけてお客様との関係づくりに徹してきたはずだ。
しかし、ある日突然の異動辞令によって、そうしたお客様達と別れなければならなくなる。
異動後は、後任の担当者に全てを任せることになるので、そう簡単に以前のお客様と接触を取ることもできない。組織のルールだから仕方がない。
こうした状況下において、異動先の支店に赴任していく営業担当者の心理はどのようなものであろうか?
結論的には、前の支店やお客様に未練は無い。
もう少し具体的に言うと、「未練を感じている余裕が無い」のである。
なぜなら、意識の大半が次の赴任先支店や新たなお客様に向いており、振り返る余裕が無いのだ。
あっさりし過ぎなくらいに、意識が先へ向き、前のことは振り返らない。
人間の脳は、次の目標や仕事、使命、すべきこと、が掲げられていると、過去の事には目が向きにくくなるように出来ているのだろう。
たとえ、それが全身全霊をかけて育てた会社であったり、信頼関係を築いた前任支店のお客様であっても。
新しい活躍の場である「新天地」を見出すことで、後に引き継ぐものはすっぱり未練無く引継ぎ、ニューワールドに進めるのではないだろうか。
ちなみにこの「ニューワールド理論」は、ネット検索しても出てこない。
事業承継の支援をしながら、こうした人の心理があることは常々感じていたが、先ほど私がネーミングしたものだ。
私も心理学を詳細に調べたわけではないが、もしかしたらそうした考え方があるのかもしれない。
では、事業承継に際した会社では、具体的にどのように応用すればよいだろうか。
一つの解決策は、「先代社長とさりげなく一緒に、次の活躍の場を見つけていく。」ことであると思う。
次の活躍の場とは、新事業の起ち上げや社会奉仕、趣味やスポーツなどである。
それでもやっぱり社長業を長年してきた方は、新事業起ち上げが最も遣り甲斐があるのではないだろうか。
実際に、「これまでの経営経験を活かせる分野での起業をしたい。」という先代社長の声をよく聞くからだ。
本業の隣の業種でも良いだろうし、若い時にしたかった仕事でも良いだろう。
意外な感じがするが、年商30億~50億円程の会社(製造業)に育て上げた社長達のなかで、「引退後にはカウンターだけの居酒屋を開きたい。」とか「海辺でたこ焼き屋をやりたい。」という方が多い。
こじんまりとしていても一国一城を持ち、社会とのつながりや、新たなお客様との出会いを大切にし、楽しい語らいの時間、社会への貢献、などをしていきたいという前向きな欲求の表れなのだと思う。
後継社長は、こうした先代社長の心理にも配慮し、引退後の新たな遣り甲斐を一緒に見出すお手伝いをしていって欲しい。
それも「さりげなく」気づきを促すことが大切だ。
後継者の言うことには反発するのが先代社長であることをお忘れなく。(笑)