2016/08/21
成功・失敗事例から考える!円滑な事業引継ぎメソッド ⑪
第11回「親族内承継におけるまとめ」
前回までに、円滑な事業承継を行うための留意点を「親族内」、「親族外(従業員・取引先)」の観点に分け、成功・失敗事例を交えながら説明してきました。
そこで、今回は「親族内承継」におけるまとめをご紹介いたします。
これまでにご紹介してきました事例を踏まえ、「親族内承継」のまとめをご紹介させて頂きます。親族内承継をうまく進めるポイントは、下記のような点にあります。
(1)コミュニケーション
はじめに行うべきことは、後継候補者や経営陣、親族間での話し合いです。できれば、社長交代の5年ほど前から「自分が○○歳になったときには社長を引き継ぎたいと思う。」という前振りができると良いでしょう。その際には、親族内の「誰に引き継ぎたい。」という意向も示したいものです。ひょっとしたら、関係者の一部から予期しなかった反応が表れるかもしれません。それはそれとして受け止め、対応していく時間的余裕が必要になります。
(2)承継の方針を決める
ここでは、「誰に、いつ承継するか。」という承継方針を明確に定めることです。そのためには、先述の関係者間での綿密な話し合い、コミュニケーションが前提となります。社長一人の思いだけで承継方針を決めてしまうと、後から思いもよらぬ反対意見や抵抗が生じることがあるからです。
また事業承継対策には、自社株の引継ぎや後継者教育など様々な項目があります。しかしその多くは、対象となる後継者がそもそも決まっていなければ進められる項目はほとんど無いといっても過言ではなりません。したがって、承継方針を早い段階で決めておくことは、承継対策を円滑に進めるための前提条件でもあります。
(3)事業承継計画の策定と計画的な取り組み
「誰に、いつ承継するか。」が決まれば、その最終期日に向けて必要な取組みを着々とこなしていくことになります。そのための道しるべが、事業承継計画です。後継者育成、配置転換、次世代幹部の選定・育成、自社株の移転、事業用資産の移転など、すべき項目を挙げ、最終期日に至る各計画年度に割り当てます。自社株の譲渡など、贈与税の発生や買取り資金の確保の面から年月を要するものもあります。こうした長期に亘る取組み事項もあるため、計画に沿った取組みが必要になります。
一方で「こういうことは避けたい(承継に苦労するパターン)」は下記のようなものです。
(1)事前に決めた承継時期の延期を繰り返す
事前に決めた承継時期を、二度、三度・・・と繰り延べる社長が多いのが実感です。その理由は、「後継者がまだしっかりと育っていない。」、「会社の負債をもっと減らしてから引き継ぎたい。」、「自分(社長)は、まだまだ現場で働ける。」といったものです。
こうしたパターンの結末は、いつか起こるであろう社長の体調不良などにより、意図しないタイミングで、準備もままならないまま引き継がざるを得ない事態に陥ることが多いのです。
(2)後継者に引き継いだ後も、前社長が経営に口を出し過ぎる
従業員は、どちらが実質的な経営者なのか戸惑い、次第に前社長の顔色をうかがうようになります。次には、後継社長が自分の方針や指示を従業員に徹底できず、リーダーシップを発揮できなくなります。前社長は引き継いだ後には、後継社長の良き相談役に徹するのが上手くいくコツです。
(3)引退する経営陣が多額の退職金を取り、会社が資金難に陥る
意外に多いのがこのパターンです。税法で認められる退職金額と、会社が実際に支払い可能な資金力とは別ものです。適正な退職金額はそれぞれの判断に委ねられますが、折角会社を引き継いでくれた後継者と社員が泣きを見るような事態は避けたいものです。