2016/07/05
成功・失敗事例から考える!円滑な事業引継ぎメソッド ⑦
親族外承継(M&A)について ~小企業の売却にかかる市場~
前回までは、親族外への承継の手法として「従業員」への承継について紹介してきました。親族外の承継手法として従業員の他に「他社」への承継(売却や譲渡)が考えられますが、中小企業(特に小規模事業者)で利用されるケースはまだまだ少ないのが現状のようです。
そこで今回は、小企業の売却にかかる市場の現状とM&Aの活用が少ない理由についてご紹介いたします。
事業承継対策の必要性を世間で耳にするようになった平成18年頃は、親族内承継をいかに計画的に進めるかが重要テーマであったように記憶しています。それから8年経った現在、親族内にも親族外にも後継者が居ない場合には、M&Aで事業そのものを第三者に委ねるか、それとも廃業かという選択をどこかの段階でせざるを得ない状況にある企業が増えつつあります。そこで今回は、小企業の売却にかかる市場の現状とM&Aの活用が少ない理由についてご紹介いたします。
私自身のM&Aに対する以前の印象は、正直なところ「大企業間で行われている、どこか遠いところの話」というものでした。しかし最近では「売り希望」も「買い希望」も実際の相談案件に関わらない月はありません。まだまだ相談案件は増えていくことでしょう。
(独)中小企業基盤整備機構が実施した『事業承継に係る親族外承継に関するアンケート調査』(2007年11月実施)によれば、「(後継者を決めていない、或いは、後継者がいない企業が)どのような事業承継を望むか」という質問に対して、「できれば会社を譲渡・売却したい」と回答する割合は全体の15.7%を占めています。また、中小企業におけるM&Aの成約件数は正確な数字は出ていませんが増加傾向にあり、譲渡企業の規模としては、従業員数10~50名、売上高1~20億円が中心となっています。
一方で、小規模企業にあってはM&Aの活用が遅れていると言われていますが、その主な要因には次のようなものが上げられます。
(1)どこに相談に行けばよいかわからない
M&Aの実務家はまだまだ限られています。したがって、自社の譲渡を思い立ったとしても誰に相談よいのかわからないままに時間が経過してしまうことが多いように見受けられます。
(2)経営者の心理的抵抗感
永年に亘って育て上げてきた会社やお店を他人の手に委ねるということは、社長にとっての一大決心です。また「M&Aのような大袈裟なことをしなくても・・・」とか「うちの会社が売却対象になるのだろうか?」といったことも壁の一つとなっています。
(3)譲渡企業としての要件
M&Aの譲渡企業になるためにもいくつかの要件があります。例えば、事業そのものの魅力、財務内容の健全性、退任が予定される経営者への依存度、などです。こうした要件を満たしている必要があります。
(4)法人形態でなく個人事業主である場合
中小企業のM&Aは、株式譲渡の形で進められるケースが約9割を占めます。これにより会社が所有する資産や経営権、従業員等を引き継ぐわけですが、小企業の場合には個人事業形態である場合も少なくありません。こうした場合には、資産の譲渡か、取引先と従業員の承継という形で進めたほうが現実的です。
(5)M&A仲介に係る報酬支払
M&Aを実務的に行っている仲介機関はまだそれほど多くなく、高いノウハウも求められるため、その仲介報酬が相応の金額になります。例えば、着手金が100万円、成果報酬が最低でも1,000万円というように。こうした報酬を支払う体力があるかという点も乗り越えるべき課題となります。
これら以外にも様々な条件をクリアする必要があります。次回以降ではM&Aを上手く進めるための対策について考えてみたいと思います。