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2019/06/29
サラリーマンや個人によるM&Aは有効か?

個人によるM&A.JPG

近年では、後継者難の中小企業をM&Aで買い取るケースが増えている。

その多くが、既存の会社が、別の会社を買い取るパターンがほぼ全てであった。

しかし最近では、サラリーマンなどの個人が売却案件の中小企業を買取り、自らがオーナー社長になるケースも増えつつある。

実際に当社でも、サラリーマンや個人によるM&Aに関する相談件数が増えている。

相談内容としては次のようなものだ。

〈創業希望者A氏(28歳) 〉

「私は、社会経験5年ほどになりますが、近いうちに創業したいと思っています。

 今は会社勤めをしながら自分が事業を行うつもりでお金をコツコツと貯めてきました。

 はじめはその資金をもとに何かしらの事業で創業するつもりでしたが、最近では後継者難などを理由に売却する中小企業が多いと聞きました。

 なので、自分でゼロから事業を起ち上げるのではなく、そうした売却企業を自分個人で買い取って事業を引継ごうと考えているのです。

 だって、その方が手っ取り早いじゃないですか。」

 佐原がこのような相談を受けたとき、いろいろな思いが頭を巡った。

良い意味では、事業に前向きで意欲的な若者がいるものだなあ、と感じたし、こうした新しい考えを持つ若者の中から事業の成功者が出てくるのかもしれない、とも思った。

 

一方で、自ら会社経営を行うということが、本当に理解できているのだろうか?とも考えた。

当たり前であるが、会社を上手く買い取れたとして収益や資金を今後何年にも亘って期待通りに生み出してくれるとは限らない。

会社が資金不足になれば、自分個人の資金を会社に投入してでも事業を回さなければならないのだ。

それは、期待どおりに働いてくれない従業員達の給料を自らのポケットマネーで支払うような形になるかもしれないし、場合によっては、自分が個人保証を負って金融機関から融資を受け、事業を継続させる必要も生じるだろう。

こうしたことを乗り越えてでも会社経営をしていく覚悟が本当にあるのだろうか

「会社を買い取ったけれど経営が上手くいかなかったから廃業する」とか「買い取った会社の経営が上手くいかなかったからまた他の誰かに売却する」というほどシンプルにはいかない。

A氏が当初考えていたゼロからの創業の場合、自分の経営能力や管理レベルに合わせて、徐々に会社を大きくしていける点がメリットと言えなくもない。

 もし起ち上げた事業が上手くいかなかったとしても、痛手が大きくなるまえに一旦は廃業して事業プランを練り直し、再出発することも可能だ。

 個人でM&Aで会社を買い取った場合は、そこに従業員や販売先や仕入先、事業用資産などが有る状態で引き継ぐため、経営能力と努力次第で早く大きく収益を上げることも可能な反面、裏目に出るとコストが嵩み損失が大きくなってしまう

A氏の場合、ゼロからの創業は「ローリスク・ローリターン」であるが、M&Aによる買取りは「ハイリスク・ハイリターン」とも言えるだろう。

自分の経営能力を磨き上げ、買い取った会社の収益を安定的に確保できるようになるには、ある程度の時間が必要であろう。

それに耐え得る覚悟と努力、不屈の精神、資金力が必要なのは言うまでもない。

現在会社経営をしている世の中の経営者たちの多くが、それらを備えた人種と言える。

今はサラリーマンであるがこれから経営者になろうとする人たちは、当然にそうした条件を備えている必要がある。

〈 元オーナー社長のB氏(62歳) 〉

「私は2年ほど前に、自らが約20年経営していた会社を売却しました。

会社の業績は好調で財務内容も優良でしたが、後継者が居なかったことや、任せられる人材が社内に居なかったことなどから売却に踏み切りました。

会社経営を退いてからの2年間は、仕事づくめだった自分へのご褒美にと思い、海外旅行やクルーズ船旅行など好きなことをして余暇を思う存分に楽しんできました。でも・・・

なんだかそんな自由な余暇の生活にも飽きてきてしまって・・・

やっぱり自分だけで余暇を楽しんでいても何かが物足りなくなってしまったんですよ。

仕事を通じて世の中に貢献したり、会社経営をして資金を生んだり収入を得たり、といった遣り甲斐が懐かしくなってしまうんですよね。(苦笑)

だから、どのような業種でも良いので、私個人で売却案件の会社を30百万円ほどで買い取って、週2日ほど経営者として経営をし、現場管理は管理者に任せていければと思っているんですよ。」

この元オーナー社長B氏のケース、M&A案件としていかだだろうか?

B氏の本音の要望は次のとおりである。

・また経営者として収入を得たい

・現場は管理者に任せ、マイペースで会社に関与したい

・業種は、飲食店以外なら何でも良く「この事業をしたい」という強い思いは無い

・会社を収益物件として考える

B氏の強みは、これまでの20年の経営経験であるが、果たしてその経営ノウハウが他の業種で効果を発揮するかは疑問である。

売却可能金額が30百万円ということは、それなりに小規模な事業である。そして、現場を任せられる管理者が存在している企業規模である可能性は低い。

仮にそこその会社規模で30百万円の売却案件があったとしても、相応の借入がある可能性が高い。

B氏は、会社の買取りを金融商品か投資不動産のような感覚でいたのかもしれないが、それほど簡単なことではないように思われる。

買い取った会社の収益は、短期的には上手く回っていくかもしれないが、会社も生き物であり、経営が上手く回るようにきちんと手を掛けていかなければ、あっという間に収益性は低下してしまうものである

小規模企業や中小企業では、その傾向はより顕著になるだろう。

黙って見ているだけで長期安定的にキャッシュを生んでくれる、都合の良い投資物件のような会社は、数十億もの資産を所有していない一般的なサラリーマンや個人で購入可能なレベルではかなり限られるのではないだろうか。

B氏のような経営経験とスキルを持つ人が、「この事業を引継いで全身全霊を込めて経営をしていきたい。」という強い思いの下、買い取った会社の経営にどっぷりと浸かり、覚悟と意欲を持って経営していくのであれば、個人がM&Aで買い取った中小企業の経営は上手くいくのかもしれない。

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