2018/09/30
社長を早く引退するメリット
佐原が実際に関わってきた事業承継案件のなかで、問題になったケースの一つに、「社長が居座り続けてなかなか退任しない。」というものがある。
社長が80歳代や90歳代になっても事業承継を進めないケースもあれば、社長の座を後継者に譲った後にいつまでも口出しし過ぎるケースもあった。
当の本人にすれば、やっぱり社長の座が魅力的なのだろう。
規模に関わらず会社という組織のトップであり、その組織の従業員に対して指示命令ができる権限を持っているし、代表取締役としての役員報酬も得られるのだから。
しかし、あまり長く社長の座にあると、いろいろな弊害も生まれてくる。
一例を挙げると次のようなものだ。
・事業承継が進まず、後継候補者の年齢も高齢になると事業意欲が萎えてくる
・後継者の経営者としての成長機会を少なくしてしまう
・社長の加齢が進み、現代の時世や経営感覚とのズレが生じることによる成長の阻害
・新事業展開や新製品開発などの経営革新に向けたチャレンジ意欲の減退
・組織や従業員の若返りが進みづらくなる
・高齢社長の健康面から、会社が突然にトップを失うリスク
こうした諸問題は、実際に起きて顕在化する問題とは異なり、潜在的に進行する問題である点が悩ましい。
じわじわと水面下で緩やかに進んでいく問題と言えるだろう。
しかし、確実に会社の経営力を奪っていくのだ。
高年齢になりつつある社長には、そのことに気づきにくい点がまた悩ましい。
しかし一方で、50歳前半という社長引退にしては早いタイミングであっさりと引退する社長達がいるのも事実だ。
彼らは、社長引退を早くすることのメリットを見通しているようだった。
35歳の息子に承継したA社長はこう言っていた。
「自分が会社に長居しても良いことはないからなあ。
せっかく息子が継いでくれると言うのだから、早く息子に社長を譲って早く立派な社長に成長してもらいたかったのだわ。
継いだばかりのうちは、取引先も会長の自分の方ばかりに連絡してきたが、2年もすると息子の社長の方に権限が自然と移ったみたいだわ。
それに・・・はやく自分の趣味のゴルフをしたくてなあ(笑)」
32歳の社長に承継したB社長は、こんな感じだった。
「自分が58歳の時に、先代から言われてなあ・・・
『お前が社長になった歳は32歳だっただろう。
息子も今年で32歳、お前が社長になったときと同じ歳だろう。
そろそろ社長交代を考えたらどうだ。』と。
息子はまだ若すぎる、と思っていたが、いつの間にか自分が社長になった時と同じ歳になっていたのだよなあ・・・」
また、別のC社長はこう言った。
「会社を継ぐことの未練? そんなものは無いわ。
早く息子に継ぎたくて仕方なくてなあ。
俺らは、同じ年代のジジィ共3人で、新しい事業をこれから起こすのだわ。
それを早く始めるためには、今の会社を早く引き継ぎたくてなあ。」
上記の3社は、事業承継をして、それぞれ15年、5年、3年が経ち、それぞれの後継社長が会社の業況を良好な状態に保っているだけでなく、新たな成長に向けて邁進している。
早い段階で事業承継を進め、社長を退いた社長達には次のような、
「社長を早くやめることのメリット」が明確に見えていたに違いない。
・旅行や趣味、レジャーなどの新たな楽しみを見つけ、人生に厚みを持たせられる
・社長引退後に新たな事業を起こす動機にもなる
・会社経営を巡っての親子の揉め事から解放される
・後継者の経営者としての成長機会を早い段階でつくりだせる
・後継者が若いうちに経営力を会得することで会社を更に発展させられる
・若い後継者への交代に伴い、従業員と会社が若返っていく
社長自らが、後継者にバトンを引き継ぎ、社長の座から降りるということは、苦渋の決断かもしれない。
しかし「社長を早く引退するメリット」に目を向けることで、会社の永続的な成長発展や親子の調和、人生の厚みといった、「社長の立場を手放すこと」に見合った恩恵を享受できるのかもしれない。