2017/01/26
後継者なのに後継者じゃない?!
私が講師を務めた、ある後継者向けセミナーでのことです。その講座に参加してくれた約30名の受講生たちは、ほぼ全てが後継者であるはずでした。なぜなら、主催者が「後継者向けセミナー」として募集していたから当然と言えば当然です。そして講義を始めて間もなく、私は受講者たちに念のため、あることを問いかけてみました。それは、①自分が後継者であると明確に決まっている人、②後継者かどうかまだ不確定な人、の2パターンでした。それぞれのどちらに該当するか挙手してもらったわけですが、実際に手が上がったのは・・・ なんと約9割が後者でした・・・(驚!)。
後継者を集めたセミナーであるにもかかわらず、自分が後継者かどうか未定だという意識なのでした。この結果に驚いた私は、もう少し詳しくそれぞれに聞いてみたところ、次のように答えてくれた受講者が多いことに気づきました。
「多分、自分がいつか継ぐと思うけど、父である社長からそのように明確に言われてないし・・・」
「自分が継ぐのだろうけど、75歳の社長は自分がやれるまで社長を続けたい様子だし・・・」
「自分から継がせてくれと口に出して言うのは時期が早そうだし、今の立場のままが居心地良いし・・・」
おそらく受講者達が後継者であることは間違いなさそうなのですが、社長と後継者との間で事業承継の方針についての話し合いが明確になされていないことが、9割の回答の理由であるように思われました。
このように、将来の承継方針について明確な話し合いや方針決定がなされていない中小企業は、かなり多いのではないかと感じています。
そこで、私が関わるコンサル先企業では、下記のような取り組みをお勧めしています。
1.親子の対話
中小企業では、社長と後継者の関係であると同時に、父親と息子(娘や娘婿という関係もあります。)である場合、身内であるが故に会社の経営として事業承継の話が冷静に出来ていない場合を散見します。
そこで、まずは今後の事業承継の方針について話し合いの場と機会を持って頂くことをしています。具体的な内容は、社長交代を行う時期やその時までに進めておくべき課題、課題解決に向けた計画的な取り組み事項などについてです。当事者だけだと冷静な話し合いができない場合も多いため、コンサルや商工会議所の職員さんなどの経営支援に携わる第三者を交えることで、検討会を冷静かつ前向きに進めることができます。
2.事業承継計画の策定
親子の対話を通じて見出した承継上の課題について、その解決策と準備事項を3~5年程度の計画書にまとめてもらうことも有効な手立てです。主な課題は、自社株の引継ぎや後継者の経営能力向上、新たな組織体制構築と管理者育成などです。こうした承継上の課題を抽出するのに「事業承継課題抽出チェックリスト」を活用して頂いています。承継上の課題のなかには、遺言の活用など、なかなか当事者同士の話し合いからは切り出しにくいテーマもあります。そんなときにこのチェックリストを活用することで、感情的な話にもつれこむことなく、冷静な対策を進められるというわけです。