2016/05/02
成功・失敗事例から考える"円滑な事業引き継ぎメソッド ①
日本国内の人口構造は少子高齢化の一層の進展をみせ、それに付随して経営者の平均引退年齢も上昇傾向にあります。なかでも特に小規模事業者は経営者の同年齢が70歳を超えるといわれており、当地域も例外ではなく円滑な事業承継を実施することは経営上重要なテーマに挙げられます。
そこでここでは、様々な事例の紹介を通じて事業承継に関する考え方や備えておくべき知識などをご紹介していきます。
ある小規模企業での事業承継の成功事例とその特徴についてご紹介したいと思います。A社は、従業員6人の生活雑貨小売業を営んでいるお店です。62歳になる社長自らが創業し、家族と共にお店を経営しながら25年程が経ったところです。
近況から申し上げますと、半年程前に、お店を手伝っていた39歳の息子さんに社長の座を譲り渡し、今は相談役として新社長とともに伴走しながらお店を手伝っています。
社長も若く元気で事業意欲もあり、このタイミングで承継しなければならない後ろ向き理由は特にありませんでした。息子さんが社長として早く成長し、お店の利益を上げていくためには、早い段階で承継をするのが得策だ、という考えからの行動でした。息子さんも新社長として不安と期待感、使命感が入り混じった心境で事業に邁進しています。そこには、若い社長としてのエネルギーとバイタリティを感じます。また、小売店として事業を益々発展させていくためには、既存顧客との関係を維持しながら、若く新しい顧客層に支持される店舗づくりも必要となります。そうした感覚を経営に取り入れるには、若い感性を持った社長に交代することが中小小売店としてのマーケティング戦略の一つでもあります。ただ、こうした早いタイミングでの承継も一朝一夕でできるものではなく、そこには事前の準備がありました。
一つ目は、後継者を同業他社で修行させたことでした。15年程前から5年間程の他社勤務であったとのことです。好業績の同業他社で修行することで、一歩進んだ経営管理手法などを会得し、自店に取り入れることができます。また後継者には「自分はいつか家業を継ぐのだろう。」という意識を早い段階で持たせることもできます。息子さんが自店に勤務してくれたのも、こうした下準備があったからこそだと考えられます。
二つ目は、後継者に様々な業務を経験させていたことです。中小小売店とは言え、販売促進のイベント企画から、財務会計処理、人の採用や雇用管理、仕入先との関係構築、金融機関との調整など、経営者として会得しておかねばならない経験やスキルは多岐に亘ります。近い将来の承継を見据えてこうした業務を後継者にある程度任せ、意識的に実戦経験を積ませていたことも結果として良かったといえます。
大企業などでは社長や役員の任期が1年や2年毎になっており、その都度見直されたりします。しかし中小企業の場合には「いつ、誰に、どうやって引き継ぐか」を決め、実行できる人は社長だけです。そうでなければ、いつか社長ご自身の体調不良などにより、準備もままならないまま承継することとなり、後の人達やお取引先に迷惑をかける結末が待っています。準備して承継をするか、それとも突然に承継の時が訪れるか、二つに一つです。どちらにするか決められるのは社長しかいません。