娘婿への事業承継
外部の第三者を交えた話し合いの機会づくり
ある会社の社長(58歳)からこんな相談があった。
「佐原さん、ウチの会社も事業承継の準備を始めようと思うのですが、後継者である娘ムコとあまり話ができていなくて・・・」
どうやら社長の娘さんの旦那、つまり娘婿さんと今後の承継の方針について話ができていないご様子である。
そのお婿さんは、5年程前から社長の会社の社員として関わり、それなりの業務経験も積んでいるし、社員との関係も良好であるとのことだ。
しかし社長からは「次期社長として我が社の事業を継いでほしい。」
この一言がどうにも伝えられないらしい。
社長と婿・・・
この二人の間には、男同志でありながらもお互いにどこか遠慮してしまう心理的な壁があるようだ。
ちなみに佐原は、この会社以外にも、娘婿の後継者を持つ社長達、数人に独自インタビューをしたことがある。
質問内容は「後継者の娘婿と事業について何でも話し合うことができますか?」
回答は予想どおり・・・
「どうも、娘婿となると遠慮がちになってしまうねえ・・・」
「言いたいこともどこか遠慮してしまって言えなくなってしまうことが多いねえ・・・」
聞くと、社長とお婿さんとは、夕食などの普段の場では普通に話ができるし、時々は一緒に晩酌などもしているらしい。
しかし、こうした会社の事業承継の真剣な話になると、核心に触れた話がどうにもできないとのことであった。
事業承継についての話がどこまでできているかというと、上述のとおり「会社を継いでくれ。」の一言が伝えられていないとのことなので、事業承継の対策らしいものは何一つ進められていないことになる。
そこで佐原は提案してみた。
「社長、もしよろしければ佐原が第三者として立ち会って、事業承継の話について3人でお話ししてみませんか?
なにも始めからかしこまった話をするのではなく、会社の将来を3人でざっくばらんに話し合うだけでも良いですから。」
社長からしてみると、外部の第三者が話し合いの場に立ち会うだけでも心強いようだ。
いずれにしても、社長と娘婿との事業承継についての話し合いを進めなければ何事も進まないのだ。
半ば佐原に背中を押される形で、3人の話し合いの場が後日に実現した。
社長は不安感を抑えつつ、思い切りの良い声で切り出した。
「○○君(娘婿)、今日の話し合いは、会社の今後を前向きに考える場として、話し合いをしたいと思うんだ。
会社の将来のことでもあるから、数年後の社長の交代の話もある。
だから、事業承継コンサルの佐原さんにも同席してもらうことにしたよ。」
このような展開から始まり、終始和やかに話は進んだ。
話し合いのなかで出た要点は下記のようなものだった。
社長から伝えた事は、「数年後に社長を引き継ぎたいこと」、「そして時期社長は娘婿のあなたになってもらいたいこと」、「社長の交代にはそれなりの準備が必要なので数年かけて段階的に進めたいこと」などである。
そして、なかなか機会を掴めなくて、これまで娘婿さんにこれらのことを伝えられなかった胸中も伝えた。
娘婿さんから発せられた言葉は、「いつか社長交代の話はされると思っていたが、なかなか伝えられないので、いつ言われるかと待っていたこと」、「娘さんと結婚した当初から、いずれは自分が会社を継ぐのだろうと考えていたこと」、「社長を継ぐ覚悟は始めからできていたこと」などである。
もう一度言うが、終始和やかな雰囲気で話し合いは進んだ。
話し合いが終わってから、佐原は二人に次のように尋ねた。
「お二人は、普段からこんな風に仲良く前向きに会社の将来について話をしているのでしょうね。」
その日に交わされた二人の極自然な会話と雰囲気から感じた自分の素直な印象だったからだ。
その一言に対する社長の答えは次のようなものであった。
「いやぁ 佐原さん!
ムコ殿と、これだけ多くのことを話せたのは初めてですよ!
特に会社の事となると、どこか遠慮してしまって・・・
これまではこんなに多くのことは話せなかったのですよ! アハハハハハ・・・」
佐原:「えっ?! どうみても普段からあのように和やかにお話しできているようにしか見えなかったです!(笑)」
まずは、二人で進める事業承継対策のきっかけをつくることができ、その後は必要な引継ぎを計画的に進められています。
このように、社長と娘婿との関係だけでなく、事業承継の第一歩となる当事者間の話し合いが、できていないことが多いものです。
しかもその要因は、「当事者間だけではなんとなく話がしづらい。」とか「話し合いのきっかけがつかめない。」という心理的な障壁が大きいものです。
そのようなときには、「外部の第三者を交えた話し合いの場」を意識的に創り出すことが良い契機になることもあります。
当社では「後継社長の軍師」として、事業承継時の「橋渡し役」もサポートしています。
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